「架空融資話、第一家電社長を踊らす－－手形保証で引責辞任」 (27/9/22)

　
　「架空融資話、第一家電社長を踊らす－－手形保証で引責辞任」（1997/12/25　毎日新聞朝刊）

　◇不況の街　スイス銀休眠資金のうわさ走る 東証１部上場の家電量販店「第一家庭電器」（本社・東京都新宿区）の前社長が、架空の融資話に絡んで乱発された約束手形にかかわり、辞任に追い込まれていたことが２４日、分かった。

　約束手形は、「スイス銀行に眠る戦前のドイツ・マルク紙幣を買い付ければ、その数百倍の額面の融資が受けられる」との話を信じた前社長が、買い付け資金を作るため個人的に保証、保証総額は１０億円に上るとみられる。

　銀行が「貸し渋り」をする不況の中、経営者をねらった新手の詐欺話が浮かび上がった。

　 辞任したのは、第一家電の創業者の二男で、１９９３年に５代目社長に就任した永長年永（ながおさとしなが）前社長（５５）。

　今月８日に本人が「健康上の理由」で辞表を提出し、同日に開かれた臨時取締役会で辞任が決まった。

　 第一家電側によると、１１月下旬から前社長が共同振出人になったり裏書保証をした約束手形や念書、名刺のコピーが金融業者などに出回り、「架空融資話に絡んで前社長の手形が乱発された」という情報が相次いだため、同社は社内調査を開始。

　役員が問いただしたところ、前社長は「手形は個人的なもので、１０億円ぐらいある。担保の保証料として振り出されたが、今は詳しくは言えない」と説明。

　その後は出社しなくなったという。

　同社は今月１０日、取引先企業を集めて説明会を開き、「社長は不明朗な巨額融資話にかかわった責任を取って辞任した」と説明した。

　関係者によると、前社長には当時、金融ブローカーのグループから「スイス銀行に眠る旧マルク紙幣を買い付けてくれれば、スイス銀行も助かる。手形で現金を作り、スイスに持参すれば、その数百倍の額面の現マルクが超低利で融資される」という話が持ち込まれていたという。

　第一家電の増田繁雄総務部長は「前社長は持病のために辞任したが、背景に架空融資話が絡むとされる手形の問題があったのは事実。

　しかし、手形は前社長が個人的に振り出したもので、会社は一切無関係だった」と話している。

　毎日新聞は永長前社長に再三取材を申し入れたが、２４日までに回答がなかった。

　経営者をねらった架空の融資話は、過去にもたびたび浮上。「Ｍ資金」と呼ばれるＧＨＱ（連合国軍総司令部）の秘密資金話が起源とされ、「ユダヤ財閥資金」「オイルダラー資金」「日本政府の裏国債」などの話が出回ったことがある。

　９４年には日産自動車副社長、大日本インキ化学工業社長（いずれも当時）が同様の詐欺話にひっかかり、引責辞任した。

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